SANSKRIT TRANSCRIPTION in THIS SITE ⇒Wikipedia 通常「サンスクリット」と言えば前5世紀の文法家「パーニニ」に続く学派により規定・継承された 「古典サンスクリット」を指す。しかし以下の説明は古い時代の「ヴェーダ語」とか、後代の「仏教 サンスクリット」や「プラークリット」などでも応用は利くと思われる。 本サイトでは古典サンスクリットの各音価に記号をあてはめて表記する。 まず単母音は次のように記すことにする。(「  ̄ 」は長音記号) a i u r・ l・ a ̄ i ̄ u ̄ r・ ̄ l・ ̄ ・「a 」は【曖昧な「ァ」】だが、「a ̄」は明瞭な【アー】で、恐らく起源は別 ・「r・」=母音的な(音節の核と成り得る)「r」 便宜上【 ri 】で読まれる ・「l・」=母音的な(音節の核と成り得る)「l 」 便宜上【 li 】で読まれる ・「l・ ̄」の方は対称性から定義されただけで実際には使われない。 (「l・」を使う語も極少数である) 【エ】や【オ】の方はと言うと、これらは元々二重母音であったものの名残として扱うと文法的に 見通しがよいのだが、実際ヴェーダ期等ではそうであったのである。残りの母音は次の通り。 e ̄ o ̄ ai au ・「e ̄」=【エー】、「o ̄」=【オー】であり、これらの短母音は無い ・「e ̄」「ai 」「o ̄」「au」はそれぞれ「ai 」「a ̄i 」「au」「a ̄u」の名残である。 子音の方は以下のようになる。 k g kh gh ng t# d# t#h d#h n# s# y tレ dレ tレh dレh nレ sレ r t d th dh n s l p b ph bh m w゛ m・ h゚ h ・「C h 」=子音「C 」の有気音(気息を伴う音) 日本では普通に「kh gh th・・・」=「カ行、ガ行、タ行・・・」で表記される ・「C レ 」=子音「C 」の反舌化(恐らくドラヴィダ語起源) 「sレ 」は「シャ行」っぽく聞こえるが、その他は日本では普通に 「tレ dレ nレ・・・」=「タ行、ダ行、ナ行・・・」等で表記される ・「C # 」=子音「C 」の開拗音 つまり 「t# 」=「チャ行」 「d# 」=「ヂャ行」 「s# 」=「シャ行」 「n# 」=「ニャ行」 ・「r」「l 」は普通に読んでよい(ただし「r」は反り舌を帯びている)が、 文法上は「r・」「l・」に対応する半母音として扱われる ・「w゛」=【 v と w の中間音 】(日本では普通ヴァ行で記す)は 文法上は「u」に対応する半母音として扱われる ・「m・ 」=本来は母音の鼻音化(鼻に抜ける音)を意味していたが、音韻上で独立の子音と 数えられるようになり(アヌスヴァーラ)、「口を閉じない中性鼻音」と説明されるが、日本では 便宜上、【ン】で読まれる なお、一般の鼻音の「代用」として使われる場合もあるが、本サイトでは扱わない ・「h゚」=語末で母音直後の「-s」や「-r」が劣化して生じる「普通の【h】音」(ヴィサルガ) ヴェーダ期には直後の子音によっては別種の摩擦音になり、独自の文字2種もあった これに対して「h」=【有声の h 】であることにも注意 なお、ヴェーダ期に存在した「lレ 」(反舌のL)やその帯気化「lレh 」は、古典期には「dレ 」「dレh 」 に吸収されて消失してしまっている。(にも関わらず次のプラークリット語の時代では復活してい たりする) 「短母音+t#h 」の組み合わせは常に韻律上「長い」音節(モーラ)と見なされ、一般に促音の如く 転写・音読されるが、当サイトでもこれを明示すべく「短母音+tt#h 」と記すことにする。 サンスクリットにおける所謂「連声(サンディー)」に特有の現象として、本サイトでは次のような 記法を用いる。 ・連声によって鼻音化した子音には「¥」を付す(アヌナーシカ) ・連声によって消失した語頭の「a」は形を変化させて残されるが、 これを「〆」で記す(アヴァグラハ) 以上で古典サンスクリットの表記規則は終わりだが、厳密を期するため以上の音価が実際どの ように記されているか述べておく。 現在サンスクリットの表記にはデーヴァナーガリー文字が使用されているが、(日本で云う所謂 「梵字」のような)古い字体でも本質は変わりない。よってここでもデーヴァナーガリーを使って 説明する。デーヴァナーガリーなどのブラーフミー系文字の源流を遡れば遠くメソポタミアの アラム文字にまで辿り着くことになる。 まずデーヴァナーガリーの母音は次のようになる。 =「a」 =「 i 」 =「u 」 =「r・ 」 =「 l・ 」 =「a ̄」 =「 i ̄」 =「u ̄」 =「r・ ̄」 =「 l・ ̄」 =「e ̄ 」 =「o ̄」 =「ai 」 =「au」 実はこれらは語頭にのみ用いられる「独立形」であり、語中で子音に添えられる「半形」もある が、それらは以下の通り。 =「 i 」 =「u」 =「r・ 」 =「 l・ 」 =「a ̄」 =「 i ̄」 =「u ̄」 =「r・ ̄」 =「 l・ ̄」 =「e ̄」 =「o ̄」 =「ai 」 =「au」 【ア】の半形がないが、実はデーヴァナーガリーの子音はそのままで【ア】音と共に読まれること になっている。子音だけ拾いたい時は、下の記号を付せばよい。 = 「無母音記号」、「ヴィラーマ」 子音字の方は、 =「k (a)」 = 「kh(a)」 =「g(a)」 =「gh(a)」 =「ng(a)」 =「t#(a)」 =「t#h(a)」 =「d#(a)」 =「d#h(a)」 =「n#(a)」 =「tレ(a)」 =「tレh(a)」 =「dレ(a)」 =「dレh(a)」 =「nレ(a)」 =「t(a)」 =「th(a)」 =「d(a)」 =「dh(a)」 =「n(a)」 =「p(a)」 =「ph(a)」 =「b(a)」 =「bh(a)」 =「m(a)」 =「r(a)」 =「 l(a)」 =「y(a)」 =「w゛(a)」 =「s(a)」 =「sレ(a)」 =「s#(a)」 =「h゚」 =「h(a)」 =「m・」 連声に特有の記法としては = 「¥」 =「〆」 となる。 釈迦の活躍した頃には既に、パーリ語のような民衆語(プラークリット)が成立しており、それが 様々な外来要素を取り入れつつ発展したのが現在のヒンディー語な訳ではあるが、サンスクリ ットは現在にいたるまで厳然として学術語であり続け、事実いくつかの仏典はパーリ語ではなく サンスクリットで書かれているのである。 古典サンスクリットには無い音もデーヴァナーガリーには用意されており、例えば =「lレ(a)」 はパーリ語でも使える。そうして「lレh 」の方は「lレ +h 」のように記すのである。ちなみにパーリ語 では二重母音「ai」「au」や母音的流音「r・( ̄)」「l・( ̄)」そして「h゜」は消失しており、連声が殆ど 無いのでアヌナーシカ「¥」記号も無い。 なお、Windows 9x系ではデーヴァナーガリーに限らずインド系文字全般の表示に深刻なバグがある (左付きの母音記号が右側に付いてしまう)。そしてXP以前でインド系文字を表示するにはOSを 適当に設定せねばならない。 付録 転写と発音の例 =「w゛r・trahan」=【ヴリトラハン】(インドラの別名、悪竜ヴリトラを殺す者の意) 「w゛」は「ヴァ行」、「r・」は【リ】で読まれるのが習わし。 「h」は【有声(声帯がふるえる)の h 】であるが、カタカナ表記では気にしなくてOK。 (実は「tr」は2文字の融合した合字形をしているが、分かり易さのためにズルをしている) =「sam・sa ̄ra」=【サンサーラ】(輪廻転生) アヌスヴァーラ記号「m・」の例。 =「dyauh゚ pitah゚」=【ディヤウフ・ピタハ】(父なる天よ) ヴィサルガ記号「h゚」の例。ここでは前の母音に引きずられて【フ】【ハ】などど表記してみた。 なお、語末の「s」や「r」は「h゚」に劣化することになっているので、これの元の形は「dyaus pitar」 であり、恐らくローマの「ユーピテル(古名「JOU PATER」)」神の名に関係があるが、「dyaus」自体も 希「ゼウス(古い発音は「ズデウス」)」神やラテン語「デウス」と起源が同一であろうし、「pitar」は 「father」であろう。ヴェーダ期には「p」の前の「h゚」は唇で摩擦する「ファ行」音に変化していたが、 古典期ではそうならない。(実は「dy」は合字形になっている) =「sa ̄dhana」=【サーダナ】(精神的修行) 帯気音(気息を伴う音)の例。カタカナ表記ではあまり気にしなくてよい。 =「garudレa」=【ガルダ】(迦楼羅、半人半鳥) 反り舌音の例。カタカナ表記ではあまり気にしなくてよい。(↓は別) =「utt#husレma」=【ウッチュシュマ】(鳥芻沙摩明王) 反り舌音「sレ 」は「シャ行」の音に聞こえる。なお、短母音の後ろの「t#h 」は音韻上長く読まれる ことになっているので、「tt#h 」と書いて促音で読む。(実は「sレ m」は合字形である) 付録 お役立ちサイト Apte 辞書 − 梵(KH式ローマ字)→英 Monier William 辞書 − 梵⇔ 英 シカゴ大 DDSA 辞書 − 南アジア諸言語⇔英 まんどぅーか − サンスクリット、パーリ語の入門 辞書もある KH式ローマ字→梵字変換有り LEXILOGOS::Sanskrit Keyboard(英) − サンスクリットをブラウザ上で入力 devanagari character picker(英) − これもブラウザ上入力 デーヴァナーガリー文字全般使用可 注意:学術的な通常の転写法としては 「e ̄」→「e」 「o ̄」→「o」 「r・」→「r。」 「l・」→「l。」 「w゛」→「v」 「t# 」→「c」 「短母音+tt#h 」→「短母音+cch」 「d# 」→「j 」 「tレ 」→「t.」 「dレ 」→「d.」 「s# 」→「s´」または「c のセディーユ」 「sレ 」→「s.」 「ng 」→「n・」 「nレ 」→「n.」 「n# 」→「n~」 「lレ 」→「l.」 「h゚」→「h.」 「m・」→「m.」も使われる 「〆」→「’」 「¥」→デーヴァナーガリーそのままの形 なお、日本では京都・ハーバード式転写法も広く使われている |