IRISH EXPRESSION in THIS SITE
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アイルランド語の最初期の文章はオガム文字で書かれていたが、6世紀頃になるとラテン文字の変異体である
ゲール体で記されるようになり、その頃の言語を古アイルランド語と呼ぶ。当サイトのゲール体は次のような記号
で表す。

 a b c d e f g h i l m n o p r s t u

 a´ e´ i´ o´ u´    s f   m n

さらに近世になると以下の文字も使うようになる。

 b d g p t

しかし現代では普通のアルファベットで記されるようになり、ドット付き文字(fada)は廃止され後ろに「h」を付す事
により対応音が記されることになった。また、通常のラテン文字でここに無いものでも外来語では使うことができる。
よって当サイトでも実際には殆ど現代ラテン・アルファベットと「´」のみで事足りるだろう。


表記規則はこれで尽きているが、せっかくなので読み方も解説する。しかし話が込み入っているので古語を説明
してから現代語の読み方を示すことにする。


まず「´」は母音を長音化する記号である。

 「a´」「e´」「i´」「o´」「u´」=【アー】【エー】【イー】【オー】【ウー】

次にアイルランド語では、母音は「広い」ものと「狭い」ものの2種に分かれる、とされている。

 広母音= a o u 及びその長音
 狭母音=  e i 及びその長音

明記はされないが、狭母音の直前・直後の子音群も引きずられて「狭く」変化する。大雑把に言うと子音が「狭くなる」
とは、「硬口蓋化する」「微妙に拗音(小さい「ャ」行)っぽい」という現象である。

単に直後の子音群を「狭く」するだけなら、母音の後ろに「無音の i 」を付すことができる。直前の子音群を「狭く」したく
ば「無音の e」を母音の前に付し、さらにまた、単に直前の子音群を「広く」したいがためだけに「無音の a」を前に付す、
といったことができる。

従って母音が2つ以上並んでいたとしても真の多重母音かどうかは吟味が必要になるが、「a´u」「a´o」「u´a」「o´u」等
は確実に重母音であろう。そしてわざわざ長母音「´」を使っていれば重母音の可能性は高いので「ai´」(=「a´e」)や
「oi´」(=「o´e」)、「e´u」(=「e´o」)、「ui´」、「i´a」、「i´u」などは重母音であったろう。ただし「´」が本当に「長い」とは
限らず、単に分別のためだったという可能性もあり得る。

ひょっとしたら重母音はもっとあったのかもしれないが、筆者はよく分からないのでお茶を濁すことにして、この辺で
子音の話に移ることとする。


一般に島ケルト語では活用時または前の単語との兼ね合いで語頭の音が変化する、といったことが起こり、それは
変化の様子によって3つに分類されているが、ここでドット付き子音字の登場ということになる。(どちらかと言うと
文法事項なので詳細は省くが、)まず「eclipsis」と呼ばれるものは無声子音を有声音にし、有声音を鼻音にする。

 「p」→【b】音                  (現代の「bp」)
 「t」→【d】音                   (現代の「dt」)
 「c」→【g】音                  (現代の「gc」)   ちなみに「c」=【k】
 「f」→【v】音                   (現代の「bhf」)
 「b」→【m】=「mb」と表記(初期は「mb」)
 「d」→【n】=「nd」と表記(初期は「nd」)
 「g」→【ング】音                 (現代の「ng」)
 母音→先頭に【n】が付される         (現代では「n」と明記)

そして「lenition」と呼ばれる変化は破裂音や鼻音を摩擦音にし、摩擦音は劣化する。

 「b」→【v】音                  (近世の「b」)
 「d」→【英の濁った th】音          (近世の「d」)
 「g」→「摩擦するガ行 」音          (近世の「g」)
 「p」→【f】=「ph」と表記           (近世の「p」)
 「t」→「英の澄んだ th 」=「th」と表記   (近世の「t」)
 「c」→「独の強いハ行 」=「ch」と表記   (近世の「c」)
 「f」→無音=「f」と表記
 「s」→【h】=「s」と表記
 「m」→【vn】のような鼻音化子音=「m」と表記

最後に「gemination」では

 子音→促音(つまり二重)になる      (現代では消滅)
 母音→先頭に【h】が付される         (現代では「h」と明記)

以上は語頭音の文法的な変化だが、同様の変化は語中であっても周囲の音声環境によって生じ得る。

・母音や「l 」「n」「r」の後ろの「p/pp」「t/tt」「c/cc」は【b】【d】【g】と濁ることがあり、
 これは時には「bb」「dd」「gg」と明記されることもある。(現代の「gc」「bp」「dt」)
・母音の後ろの「b」「d」「g」は摩擦音化して【v】【英の濁った th】【摩擦のガ行】となる。(近世の「b」「d」「g」)
・「d」「l 」「r」の後ろで「b」は摩擦音化して【v】音になる。(近世の「b」)
・稀に「n」「l 」「r」の後ろの「g」は摩擦音化して【摩擦のガ行】になる。(近世の「g」)
・母音の後ろの「m」が鼻音化摩擦音【ヴン】(近世の「m」)になることがあるが、「mm」は常に【m】音になる。

なお、「h」字は恐らく基本的に無音であったが、明記されずとも語頭変異などで【h】音が存在する場合はある。
そして語末に無い「l 」「n」「r」は常に一種の「緊張」状態にあったらしいが、「ll 」「nn」「rr」は語末においても
「緊張した」子音を示す。この「緊張状態」は恐らく何らかの「歯音 」であったと思われるが、現代では殆ど失われ
てしまっている。


古語についてはこの辺でお開きにして、現代語の発音を列挙することとするが、日常的な話者は各々の方言で
喋っているので、方言分化前の言語として復興されたアイルランド共和国の公用語を基準として採用する。


母音字の読みは以下の通り。アイルランド語のアクセントは大抵はじめの音節にあり、それ以外の場所では
短母音は曖昧母音になる(以下では【曖昧母音】→【э】とする)。

・「a」=【ア】
 =「ai 」(「i 」は直後の子音群を「狭くする」だけで無音)
 =「ea」(「e」は直前の子音群を「狭くする」だけで無音)
 =「eai 」(「e」「i 」は直前・直後の子音群を「狭くする」だけで無音)
 ・「a」「ai 」「ea」は「rl 」「rn」「rd」の前や、音節末の「ll 」「nn」「rr」の前で長め。
 ・「a」は語末の「m」の前でも長め。
 ・「beag(=small)」においては「ea」は【広口の「オ」】になる。
 ・少数の語においては、「bh」の前で「ai 」は【エ】音になる。
 ・アクセントの無い時は【э】になる。
・「a´」=【アー】
 =「a´i 」(「i 」は直後の子音群を「狭くする」だけで無音)
 =「ea´」(「e」は直前の子音群を「狭くする」だけで無音)
 =「ea´i 」(「e」「i 」は直前・直後の子音群を「狭くする」だけで無音)
・「e」=【エ】(直前・直後の子音群を「狭くする」)
 ・アクセントの無い時は【э】になる。
・「e´」=【狭口の「エー」】(直前・直後の子音群を「狭くする」)
 =「e´a」(「a」は直後の子音群を「狭くしない」だけで無音)
・「i 」=【広口の「イ」 】(直前・直後の子音群を「狭くする」)
 ・音節末の「ll 」「nn」の前や、語末の「m」の前では長めになるが、はっきりとした【イー】。
 ・アクセントの無い時は【э】になる。
・「i´」=【イー】(直前・直後の子音群を「狭くする」)
 =「ai´」=「oi´」=「ui´」(「a」「o」「u」は直前の子音群を「狭くしない」だけで無音)
 =「i´o」(「o」は直後の子音群を「狭くしない」だけで無音)
 =「ai´o」=「oi´o」=「ui´o」(「a」「o」「u」は直前・直後の子音群を「狭くしない」だけで無音)
・「o」=【広口の「オ」
 ・「o」は「n」「m」の直前で【弛んだ「ウ」 】になる。
 ・「o」は「rl 」「rn」「rd」の前や、音節末の「ll 」「rr」の前では長めになるが、はっきりとした【オー】。
 ・「o」は音節末の「nn」の前や、語末の「m」「ng」の前で【ウー】になる。
 ・アクセントの無い時は【э】になる。
・「o´」=【オー】
 =「o´i 」(「i 」は直後の子音群を「狭くする」だけで無音)
・「u」=【弛んだ「ウ」
 ・「u」は「rl 」「rn」「rd」の前では長めになるが、はっきりとした【ウー】になる。
 ・英語からの借用語で【ア】になる「u」字では【アとオの中間音 】になる。
 ・アクセントの無い時は【э】になる。
・「u´」=【ウー】
 =「u´i 」(「i 」は直後の子音群を「狭くする」だけで無音)
 =「iu´i 」(「i 」は直前・直後の子音群を「狭くする」だけで無音)

・「ae」=【狭口の「エー」】(昔の名残か知らぬが「e」は直後の子音群を「狭くしない」)
 =「aei 」(「i 」は直後の子音群を「狭くする」だけで無音)
・「ei 」=【エ】(直前・直後の子音群は「狭くなる」)
 ・「m」「mh」「n」の前で【広口の「イ」 】になる。
 ・「rl 」「rn」「rd」の前で【狭口の「エー」】になる。
 ・音節末の「ll 」の前で【эi 】になる。
 ・音節末の「nn」や語末の「m」の前で【イー】になる。
・「e´i 」=【狭口の「エー」】(直前・直後の子音群は「狭くなる」)
・「ao」=【イー】(直前・直後の子音群を「狭くしない」)
 =「aoi 」(「i 」は直後の子音群を「狭くする」だけで無音)
 ・「aon(=数字の1)」においては【暗めのエー】になる。
・「ia」=【iэ】(直前の子音群は「狭くなる」)
 =「iai 」(「i 」は直後の子音群を「狭くする」だけで無音)
・「io」=【弛んだ「ウ」 】(直前の子音群は「狭くなる」)
 ・「t」「d」「th」「s」「r」「n」の前で【広口の「イ」 】になる。
 ・音節末の「nn」の前で【イー】になる。
・「iu」=【弛んだ「ウ」 】(直前の子音群は「狭くなる」)
・「oi 」=【エ】(直後の子音群は「狭くなる」)
 ・「s」「cht」「rs」「rt」「rth」の前で【広口の「オ」 】。
 ・「n」「m」「mh」の後ろで【広口の「イ」 】。
 ・音節末の「ll 」の前で【эi 】。
 ・音節末の「nn」と語末の「m」の前で【イー】。
 ・「rl 」「rn」「rd」の前で【オー】。
 ・アクセントの無い時は【э】になる。
・「ua」=【uэ】
 =「uai 」(「i 」は直後の子音群を「狭くする」だけで無音)
・「ui 」=【広口の「イ」 】(直後の子音群は「狭くなる」)
 ・「cht」「rs」「rt」の前で【弛んだ「ウ」 】。
 ・音節末の「ll 」「nn」と語末の「m」の前で【イー】。
 ・「rl 」「rn」「rd」の前で【ウー】。
 ・アクセントの無い時は【э】になる。
・「eo」=【オー】(直前の子音群は「狭くなる」)
 =「eoi 」(「i 」は直後の子音群を「狭くする」だけで無音)
 ・次の語において「eo」は【広口の「オ」 】になる。
   「seo(=this)」「anseo(=hear)」「deoch(=drink)」「eochair(=a key)」

そして子音字では次のようになる。なお、現代では語頭変異は全て明記されることになっている(ドット字について
は既に述べた)。

・「v」=【w(広) / v の口蓋音「ヴィャ行」】
・「f」=【f】の広狭2種
 ・「fh」=無音(「f」の「lenition」)
 ・「bhf」=「v」字扱い(「f」の「eclipsis」)
・「s」=【s】の広狭2種
 ・語頭の「sm」「sp」「sr」においては常に「広い」
 ・「sh」=【h】(「s」の「lenition」)
  ただし例え「狭く」とも【アー】【オー】【ウ(ー)】音の前で無くばそのまま【h】
 ・「ts」=【t】の広狭2種(「s」の「lenition」だが「an(=the)」の後ろで生じる特別形)
・「h」=【h】
・「b」=【b】の広狭2種
 ・「bh」=「v」字扱い(「b」の「lenition」)
 ・「mb」=「m」字扱い(「b」の「eclipsis」)
・「d」=【d】の広狭2種
 ・「dh」=「gh」字扱い(「d」の「lenition」)
 ・「nd」=「n」字扱い(「d」の「eclipsis」)
・「g」=【g】の広狭2種
 ・「gh」=「摩擦する「ガ行」(広) / 「ヤ行」(狭)」(「g」の「eclipsis」)
  ただし長母音の直後で「広い」なら無音
 ・「ng」=「ンガ行(広) / ニャ行(狭)」(「g」の「eclipsis」)
  ただし語中・語末では「ングガ行(広) / ニュギャ行(狭)」
  及び語末の「ing」(従って「ng」は「狭い」)では【ニュ】音になる
・「p」=【p】の広狭2種
 ・「ph」=「f」字扱い(「p」の「lenition」)
 ・「bp」=「b」字扱い(「p」の「eclipsis」)
・「t」=【t】の広狭2種
 ・「th」=【h】(「t」の「lenition」)
  ただし例え「狭く」とも【アー】【オー】【ウ(ー)】音の前の「狭い t」からのlenitionで無くばそのまま【h】
  及び音節末で無音になる
 ・「dt」=「d」字扱い(「p」の「eclipsis」)
・「c」=【k】の広狭2種
 ・「ch」=「独語の摩擦するハ行 」の広狭2種(「t」の「lenition」)
  ただし例え「狭く」とも母音間では【h】音になる
 ・「gc」=【g】の広狭2種(「c」の「eclipsis」)
・「m」=【m】の広狭2種
 ・「mh」=「v」字扱い(「m」の「lenition」)
・「n」「nn」=【n】の広狭2種
・「l 」「ll 」=【l 】の広狭2種
・「r」=【r】の広狭2種
 ・「rr」=常に【r】

なお、語頭変異で生じた綴りに関しては、文頭や固有名詞などで大文字にしたい時であっても、最初の方の
子音字は大文字にしない。つまり次のようになる。

 「mB...」 「nD...」 「nG...」 「bP...」 「dT...」 「gC...」 「bhF...」 「tS...」
 「tA...」(「tS」の母音版) 「nA...」(母音のeclipsis) 「hA...」(母音のgemination) ...

そして「短母音」+【l /r/n】音+【b/w/f/v/g/独の強いハ行 /摩擦する「ガ行」 /m/ンガ行 】においては子音連続
を避けるべく【l /r/n】音の直後に曖昧母音【э】が挿入されて読まれる。

アクセントのある音節に限っては、「bh」「dh」「gh」「mh」などのlenitionされた子音字は母音字と共に二重母音を
構成することもできる。

・「abh(a(i ))」「amh(a(i ))」「obh(a(i ))」「odh(a(i ))」「ogh(a(i ))」=【эu】
 =「eabh(a(i ))」「eamh(a(i ))」(「e」は直前の子音群を「狭くする」だけで無音)
 (↑2行とも「a」のみは無音、「ai 」は直後の子音群を「狭くする」だけで無音)
・「omh(a(i ))」=【オー】(「a」は無音、「i 」は直後の子音群を「狭くする」だけで無音)
・「umh(a(i ))」=【ウー】(「a」は無音、「i 」は直後の子音群を「狭くする」だけで無音)
・「adh(a(i ))」「agh(a(i ))」=【эi 】
 =「aidh」「aigh(a(i ))」「oidh(i /ea)」「oigh(i /ea)」(直後の子音群は「狭くなる」)
 =「eadh(a(i ))」(直前の子音群を「狭くする」)
 =「eidh(i /ea)」「eigh(i /ea)」(直前・直後の子音群は「狭くなる」)
 (↑4行とも「a」「i 」のみは無音、「ai 」「ea」は直後の子音群を「狭く」・「広く」するだけで無音)
 ・アクセントの置かれぬ「adh」「eadh」は【э】音
 ・アクセントの置かれぬ「aidh」「aigh」は【イー】音
・アクセントの置かれぬ「idh」「igh」は【イー】音になる



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